脱力はなぜ重要なのか
投球の一番の基礎は脱力になります。
投球に限りませんが、脱力は人間の動作では最も大事といえるものです。
なぜ脱力が大事か、という理由ですが、
これは、人間の能力に限界があることに由来しています。
人間には身体という物理的な限界があるのです。
この限界は目には見えませんし、測定することもできませんが、確かに存在します。
つまり、最大出力が100の身体では100以上の力は出せないということです。
(身体能力の向上に限界があるという意味ではありません。トレーニングによって身体の限界を引き上げることができるからです。そしてどこまで引き上げることができるからはわかりません。つまり、「身体能力の向上」は今のところ、「無限」ということになります。)
誤解をされてはいけないので、言葉を注意深く選んでお伝えしています。
身体における出力には限界があるということをまずしっかり理解してください。
筋出力の限界
身体の限界のうち、このはなしで特に重要なのは、筋出力の限界です。
筋肉が太くなれば力が増すことはご存知かと思います。
筋肉が生み出す収縮力は、筋肉の太さに比例するからです。
つまり、ある太さの筋肉が出せる力はすでに決まっています。
筋肉10で10の力なら、筋肉50で50の力ということです。
筋肉の出力の限界があるということです。
(筋力には、神経系の働きもかかわっていますが、筋出力における関与の割合は1割程度にとどまることから、ここでは割愛します。)
脱力とは筋肉がフリーな状態
さて、脱力のはなしに戻ります。
脱力とは筋肉がどういう状態にあるときでしょうか?
脳は筋肉に2つの命令しか出せません。
「縮む」か、「何もしない」かです。
心臓や内臓を除く骨格筋は、すべてこの2つの指令で動いています。
脱力とは、この2つのうちの「何もしない」状態のことを指します。
筋肉がフリーな状態ということです。
ここでもうひとつ重要なことは、筋肉は伸びることができないということです。
筋肉は身体の指令で伸びることができないので、何か外部の力によって伸ばされるしかないのです。
ストレッチは、自分の身体のほかの部位の力や、他の誰かの力で行っていますね。
そしてこの伸ばされるときにも、筋肉はフリーでなくてはならないのです。
筋肉が最もスピードを発揮できるのは脱力後の収縮
さて、筋肉が最もスピードを発揮できるのはどういうときでしょうか。
手首のスナップを例に考えてみます。
手首を前後に振ってみてください。
まずは手首全体に力を入れながら振ってみてください。
次に、なるべく力を抜いて振ってみてください。
どちらが早く手を振れましたか?
圧倒的に、力を抜いたほうが早かったと思います。
これは手首だけではありません。全身に共通した仕組みなのです。
筋伸張反射
脱力がスピードを生むのには、筋伸張反射というカラクリがあります。
筋伸張反射とは、筋肉が伸ばされたときに一瞬で縮もうとする身体の反射のことです。
この反射は、自分の意思で筋肉に力を入れたときの数倍の力で筋肉が収縮するため、スピードが非常に速いのです。
ジャンプする前にしゃがむ動作がありますが、あれも筋伸張反射を使った運動です。
しゃがむことによって、ふともも、ふくらはぎ、足の裏といった筋肉を伸ばして筋伸張反射で一気に収縮させています。